家計見直しのワザ47【第18のワザ】一家の経済危機を乗り越える秘策 その2
ファイナンシャル・プランナー ゆりもとひろみ
前回は、家計の現実を見られず、対策が取れない人には「人任せ・運任せ」の考えがあるというお話をしました。今回はもうひとつのパターン、恐怖心から支出を減らせない場合の原因と対策についてお伝えします。
現実を見られないパターン(2)―恐怖心で支出を削減できない
「失業や病気で収入が半分になった」という非常事態の場合、原則はきわめてシンプルです。支出を収入に合わせて半分にできれば、家計は破綻しません。
例えば、
- 食費や娯楽費を抜本的に見直す
- レジャーや交際を控える
- 車のランクを下げる、あるいは手放す
- 携帯は定額料金プランに切り替える
- 子どもの塾をやめ、私学進学も見送る
- 住宅ローンが重ければ物件を売却し、安い賃貸や実家に移る
極端に聞こえるかもしれませんが、これくらいの対策をすれば支出を半減できる家庭は多いでしょう。
ところが、実際に収入ダウンに直面しても思い切ったコストカットができず、破産や自殺といった悲劇に至る方も少なくありません。
なぜでしょうか。その背景には、人間の精神性が関わっています。
向上欲求と家計リストラ
人間は「向上すること」に喜びを感じる生き物です。新しいことを理解できると嬉しい、昨日より上達したと嬉しい、収入が増えて暮らし向きが良くなると自分の価値も高まった気がする――そんな感覚を持っています。
そのため、
- 生活レベルの上昇=「自分の値打ちが上がった」
- 生活レベルの下降=「自分の値打ちが下がった」
と錯覚してしまうのです。特に男性に自殺が多いのは、収入減そのものより「世間から値打ちが下がったと見られる」ことに耐えられないからかもしれません。
ですから、住居・車・教育費といった、周囲から見てもわかる支出に手をつけるのは、本当に勇気がいることです。では、人間の持つ向上欲求に逆らわず、どう家計のリストラを実現すればよいのでしょうか。
【第18のワザ】
恐怖心への支払いを止める
収入が減っても支出を減らせない場合、その背景には「自分の値打ちが下がったと思われたくない」という恐怖心があります。
以前お伝えした「投資と消費の違い」と同じで、恐怖や焦りからの支出は投資効果を生みません。恐怖心を克服するには、その中身を冷静に見つめ直す必要があります。
- 今、あなたが恐れている「最悪の事態」とは何か?
- それが起きたとき、本当にあなたの値打ちはなくなってしまうのか?
- 恐怖心から手放せないものより、もっと守るべき大切なものはないのか?
こうした問いを自分に投げかけてみましょう。
神戸―阪神・淡路大震災からの復興
大学時代、大阪市の実家から、神戸大学に通っていた私は、1995年1月17日に起こった出来事をまさに実体験しています。そう、「阪神・淡路大震災」です。当時、神戸大学の4回生だった私は、卒論の仕上げと後期試験の勉強に追われていました。
早朝のずいぶんと長い地震で目を覚まし、テレビをつけました。まだ被害の実態はつかめておらず、大学へ行く支度をしながらテレビを眺めていました。そのうち分かってきたことは、震源地が神戸であること、地震の規模も被害も、かつてないくらい大きいらしいこと、阪神・阪急・JR神戸線全てがストップして大学には行けないこと。その後、神戸大学は、1ヶ月の全面休校と後期試験を全部レポート提出に代えることを発表しました。
卒業間近にもかかわらず、思わぬ時間の空白ができ、「これはボランティアに行くしかない」ということで、10日程救援キャンプに詰めました。
阪急梅田~塚口駅まではすぐに開通したので、塚口まで行き、そのあと救援キャンプがある御影(みかげ)まで、様変わりした街並みを見ながら歩きました。建物は崩れ、信号は全て止まっていました。救援キャンプでは炊き出しのお手伝いをしました。様々な出来事や人との出会いがありました。
話せば長くなって、きりがないのですが、あの10日間は、私の人生にとって忘れることのできない貴重な経験をさせていただきました。
強く印象に残っているのは、毎晩、闇夜を切り裂くように響く、救急車のサイレンの音が、犠牲者の悲鳴のように聞こえたこと。それから、被災者の女性の一人が、「いつまでも悲嘆にくれていてもしょうがないから」と、毎日数時間、私たちと一緒にボランティアをされたこと(その方の行動は本当に立派だったな、なかなかできることではないと、今になって思います)。
このような事態が、これからも私たちの身にふりかかる可能性は、ゼロではないでしょう。命ひとつが助かったとしたら、どうしましょう。今まで、失いたくないとしがみ付いていたものは、取るに足らないものに見えてきませんか?
そして、試練を受け止め、たくましく復興していった神戸の町を見てどう思われますか。心からの支援と、人間として尊敬の念が湧いてくるのではないでしょうか。
恐怖に支配されず、現実を受け止める
収入ダウンを「カッコ悪い」と恐れるのはやめましょう。人生をたとえ白紙に戻しても、一歩一歩復興していけるのです。正直に現実を認め、分相応な生活から再出発する人には、周囲から温かい励ましが必ず届きます。
このコラムを書いた人

ゆりもとFP事務所 代表
株式会社FPフローリスト 代表取締役社長
圦本 弘美
ゆりもと ひろみ
ファイナンシャル・プランニングで
日本を元気にします!
- CFP®認定者
- 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
- 宅地建物取引士
- 一種外務員

